ここで息をする



私の向かいの席に、高坂先輩がどかっと豪快に座る。そして自分の前にあった本の山を横に退けると、私の前にあった映画のチラシも退けてくれた。そのタイトルは、昨年アカデミー賞で話題となった作品だった。


「どうだ? ちょっとは涼しくなったか?」

「は、はい。だいぶと」


退けられたチラシから慌てて視線を正面に戻す。

荷物がなくなって開けた視界に高坂先輩が映る。意外とその距離は近くて、こうやって机越しに座っているとまるで個人面談だなと思った。

一瞬先輩がじっとこちらを見たとき、またあの三浦先生みたいな鋭い目をしているように見えたから、余計にそう思えたのかもしれない。


「悪かったな、こんな遠いところまで連れてきて。静かな場所の方がゆっくり話しやすいと思ったんだ」


先輩は首の後ろに手を当てると、苦笑しながらそう言った。その言葉で、ここに連れてこられた理由を内心で納得する。

確かにここは静かだ。しかも個室だから、ゆっくり話が出来そうな雰囲気もある。おまけに先輩はこの部室を使っている映画研究部の部員で、自由に立ち入ることが出来るみたいだし。

活動以外の私用で勝手に使うのが許されているのかは分からないけど、先輩にとってはとりあえず都合のいい場所に違いないと瞬時に理解した。


「あとそれに、ここに来て説明した方が頼みの内容も理解してもらいやすいと思ってな」

「……え?」


意味がよく分からなかった。ここだと、理解しやすいとは……?

頭の中がちんぷんかんぷんになる私に、先輩は少し前のめりになって向き合った。

至近距離で目が合う。じっと射抜くような揺るぎない真っ直ぐな瞳から、たちまち逃げられなくなってしまった。


「頼みっていうのは、おまえに……」


瞬きするのさえ忘れて、先輩が口を開く姿を見つめる。