「どーぞ」
「……お邪魔、します」
……まあ、とりあえず話を聞くだけだから。
そう自分に言い聞かせると、先輩がドアを手前に開けて待ってくれているそこに遠慮がちに足を踏み入れた。
「……うわ、暑い!」
部屋に最初に入って感じたのは、密室にこもっていた熱気だった。息苦しいむわっとした空気に、一瞬にして身体が包み込まれる。
居心地の悪いそれに顔をしかめながら、部屋に入ってすぐに足が止まってしまった。その横を高坂先輩が颯爽とすり抜ける。
「わりーな。この部屋エアコンも扇風機もねーんだよ。窓開けたらちょっとはましになるはずだから、ちょっと我慢してくれ」
「あ、窓開けるの手伝います」
「いいよ、すぐ終わるから。適当にその辺に座って待ってろ」
そう言うや否や、入り口の向かいにある部屋の窓を次々に開けていく。振り返ってみると、入り口のドアもストッパーで開けたままにしてあった。
手持ちぶさたな私は、とりあえず先輩に言われた通り座ることにした。
窓に向かって左側には大きなスチール棚があり、右側にはホワイトボードと電子ピアノらしきものが一つ。部屋の中央には長机が二つ向かい合わせに並んでいて、それに添う形でパイプ椅子が置かれていた。
机の上には2台のノートパソコンやDVDケース、それから本と雑誌、映画のチラシやパンフレットなどが乱雑に置かれていて、どこに座るのがいいのか悩んでしまう。
ここならいいかなと、一番荷物が少なそうなホワイトボードに近い端の席に腰かけた。リュックサックを足元に置いて、汗ばんでいる肌に風を送り込もうとカッターシャツの襟元をぱたぱたとはためかせる。
先輩が窓を開けてくれたおかげでだいぶ部屋の空気は循環していて、座って落ち着けば過ごせる程度の室温に感じられた。おでこに残る汗を手の甲で拭って、さっと前髪を整える。


