4階には、授業で使う教室ではなく部活の部屋ばかりが並んでいた。移動教室では通らない廊下に物珍しさを感じて、一つ一つのドアにかけられている様々なドアプレートに目を向ける。
写真部、天文学部、新聞部。漫画研究部、英語同好会、ボランティア同好会などなど。存在を知っていたり、はたまた全然知らなかったりする様々な名前が並んでいる。
ドアプレートは部員で各々に用意しているみたいで、ポップに彩られたりシンプルに部の名前が書かれていたりと、すべてデザインが異なっていた。
今日はどこも活動していないのか、部屋はたくさんあっても寂しいほどに人気がない。1階の調理実習室からは料理部の匂いを、3階の音楽室からは吹奏楽部の音を感じられたけど、ここはさっぱりだった。
もしかして先輩、自分が入ってる部活の部屋に案内するつもり?
「着いたぞ」
静かすぎてまるで異空間みたいな空気を肌で感じながらそんな推測をしていると、高坂先輩が足を止めた。部室を見るのに夢中になるあまりいつしか遅れを取っていたようで、ちょこちょこと走って先輩が佇むその隣に駆け寄る。
先輩の前にある、角部屋のクリーム色のドア。そこには黒い長方形のドアプレートがかけられていて、白い文字で書かれている文字を私は確かめるように読み上げた。
「……映画研究部……?」
「そう、映研部。俺が入ってる部活の部屋だ」
考えていた通りの結果だった。
私のスカートと同じ淡い水色チェック模様のスラックスのポケットから、先輩は銀色の鈴がついた鍵を取り出す。チリンと可愛らしい音が鳴ったかと思えば、続いて解錠された音が辺りに重く響いた。
わざわざこんな昇降口から一番遠い場所に来てまで話す内容って、結構重大な頼みだったりするのかな……。
今になってそんな嫌な予感が浮かび、背中に冷や汗が伝う。けれど、もう引き返せそうにない。


