ここで息をする







本館を経由して中庭の北側に行くと、北校舎がある。

ここには特別授業などの移動教室で使う部屋と、文化部や同好会が部室として使用する部屋が集まっている。季里が所属している料理部の活動場所である調理実習室も、ここの1階にあるのだ。

何かを焼いている匂いだろうか。香ばしい食欲を誘う匂いが、4階の廊下を歩く私の鼻にまで漂い届いてくる。

ちょうどお昼時だし、今日の料理部の活動はみんなでランチ会をするための料理作りかもしれない。まだ昼食を食べてないから、匂いにつられてお腹が鳴りそうだった。


週に数回の移動教室でしか訪れない北校舎。

私はその歩き慣れない空間を、刺激された空腹に耐えながら歩いていた。ただひたすら、高坂先輩の広い背中を追いかけて。


――「立ち話もあれだから、詳しいことは場所を変えてから話す」


浮かれきった表情の高坂先輩にそう言われたのは、まだ数分ほど前のことだ。

とりあえず先輩の言葉に頷き、靴を履き替えるのをやめて昇降口をあとにしてからは、先に歩き始めた高坂先輩に従うようにその背中を追いかけた。

そして私達は本館を抜けて、中庭の渡り通路を通り、今まさにこの北校舎の4階に辿り着いたところである。

行き先は知らない。話をするために場所を変えるのなら、てっきり目的地は中庭のベンチか近くの適当な教室だと思っていたけど、どうやらそれは見当違いだったようだ。

先輩は最初から行き先を決めていたみたいで、確かな足取りでずんずん歩く。

でも時々振り返って私の存在を確認しながら、歩む速度を調整してくれているようだ。だから無理なく彼の背中を追いかけられる。