「ごめんね波瑠ちゃん、私が引き止めたからゆっくり食べる時間なくなっちゃったよね。また今度会ったら、ゆっくり話そうね!」
先輩と合わさった視線を逸らせずに固まっていた私の意識は、申し訳なさそうに慌てている沙夜ちゃんの声によって呼び戻された。
綺麗な形の眉を下げながら両手を合わせて謝る沙夜ちゃんに、私は首を横に振って応える。
「全然いいよ。まだ間に合うから大丈夫だし。……そうだね、また会ったらね。バイバイ」
「うん、またねー!」
次に会える機会を楽しみにしている様子の沙夜ちゃんの言葉にも一応それなりに答えて、軽く手を振ってからさっさと背を向ける。
そして東校舎へと足を進めた。
航平くんと沙夜ちゃん。それからあの先輩。
それぞれの視線から逃れるために、ぐんぐんと加速しながら。
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期末テスト最終日は2時間目でテストが終わり、昼には下校出来ることになっている。意気揚々と学校の外を目指す生徒の流れに乗って、私は一人で昇降口を目指していた。
1週間という地獄のようなテスト期間からようやく解放されて、せっかく午後からフリーとなれるのに、あいにく私にはこれといった楽しみな予定が一つもない。
自由な時間を得られたのだから、真紀と季里と一緒にどこかでお昼ご飯を食べてそのまま街をぶらぶら出来たら最高によかったのだけど、残念ながら二人には今日も部活が待っていてそれは叶わない。
二人ともそれぞれ自分の好きな趣味やスポーツの部活に入っていて、たまに愚痴をこぼしたりしていても、実際はとても真剣に取り組んでいる。そのことを知っているだけに、無責任にサボろうなんて声もかけられなかった。
じゃあ仕方ないから一人でぶらぶらしよう……という意欲も、いまいち湧いてこない。


