ここで息をする



廊下や昇降口ですれ違ったりすると、ふとこの先輩が私を見ていることに気付くようになった。

最初は気のせいだと思っていた。でも何度もすれ違うたびに見られている気配がするから、さすがに気のせいなんかじゃないと思い直すことになったんだ。

しかも先輩の謎の視線は、普段すれ違うときだけじゃなくて、プールの時間にもよく向けられている。

てっきり授業が退屈で、黒板ではなく窓の外のプールによそ見をしているだけだと思っていたけど、プールの授業を受けるたびに視線を向けられているからさすがに気付いた。

彼はプール全体を何気なく見ているのではなくて、私を探して見ているのだと。

プール以外で見られているときと同じあの物言いたそうな目だから、さすがにもう私の勘違いではないと思う。

それに私がたまに怪訝な顔でじっと見つめ返してみると、見ていたことを誤魔化すように目を逸らしているから、見ている自覚は彼にもはっきりとあるようだ。


……何なのだろう、一体。

用件も言わずに不躾に向けられるだけの視線には、さすがに不快感を抱き始めていた。

その一方で、先輩の目が個人面談のときの三浦先生の目にどことなく似ていることが、私をもやもやと不安にもさせる原因となっていた。

隠しているはずの私の心の奥を見抜いてくるような、鋭くて危険な雰囲気をその瞳から感じる。それがすごく気になっていた。

見られることを嫌だと思う一方で、その目で私を見てくる理由を知りたいと、微かに思ったりもしていた。

人の心を見透かしているようなそれから逃げなくちゃと咄嗟に思うのに、逆に引き付けられてしまっている。とても、不思議なことに。