……なんて、私がこんなことを思うのはおかしいよね。
私が二人から離れたのだから、距離感があるのは当たり前だ。自分が遠ざけた存在にとやかく思う資格なんてない。
でも、自分でも嫌になるほど卑屈な考えだと自覚しても、一度抱いてしまった感覚はいつまでも纏りついてくる。
そんな中、優しい笑みで沙夜ちゃんと向き合っていた航平くんの視線がふとこっちに向いた。
二人の姿を目にして硬直していた私の視線と、見事にぶつかってしまう。
「あ……」
いつぞやのように、ようやく私が居ることに気付いた航平くんの表情に影が生まれる。
二人にこれ以上気を遣わせるのは忍びないので、私はいつだったかにも言ったような逃げるための台詞を吐いた。
「……私、そろそろ教室戻るね。5時間目が体育だから、早く食べて着替えなきゃいけないし」
自然を装うために、何てことない口調を心がける。そしてそのままじゃあねと二人に告げて立ち去ろうとした。
だけど方向転換する直前、逃げたい一心で動いた私に真っ直ぐ向けられている視線に気が付いて、思わず身体の動きを一瞬止めてしまった。
それは沙夜ちゃんのものでも、航平くんのものでもない。二人とも視界に私を入れているけど、そんな力強い眼差しは向けていない。
ただただ真っ直ぐ私を見ている視線の主は――航平くんの斜め後ろに立っている人だった。
飲み物を買いにやって来た航平くんに同行していた友達。沙夜ちゃんが航平くんの隣に並んだときも、ただ静かにその様子を見ていた彼。
彼は例の、私がぶつかった先輩だ。
……まただ。
じっと謎めいた瞳と対峙して、自然と身構える。
何か言いたいことがあるようなくせに、結局は何も言わない。そんな動機が不明な瞳を向けられる回数は、初めてのプールの授業で先輩を見つけて以来格段に増えていた。


