私がたとえ避けていても、以前と変わらない態度で接しようとしてくれている。ときには私の顔色を窺いながら、関係が切れないようにと。
航平くんと同様に沙夜ちゃんとまともに会って言葉を交わすのは久しいけれど、現にこうして沙夜ちゃんは距離を感じさせなかった。
「波瑠ちゃんは、購買に買いに来たの?」
「ううん。飲み物を買いに来ただけ。沙夜ちゃんは?」
「私は購買と飲み物だよ。友達がパンを買いに行ってくれてるから、私は飲み物担当ってわけ」
航平くんと違って、沙夜ちゃんは自ら話題を振ってくる。
私としては避けている身だから気まずいし、形は違えど気遣ってもらっているのに変わりはないのだから、申し訳ない思いが膨らむ。でも自分が気まずいからと、こんな私との関係を続けてくれている友達を邪険にすることも出来なかった。
だから沙夜ちゃんの目一杯の優しさに応えるように、私もまた偽るために普通を意識して演じるんだ。
本当は二人にはごめんねと、そして最大級のありがとうを伝えるべきなのだろう。今でも私を拒否することなく、むしろ離れようとしている私を引き止めて受け入れようとしてくれているのだから。
でも心のどこかで意地を張っている私は、離れようとするたびに実感する二人の優しさに甘えて、ただこうして微妙な関係をずるずると保っているだけだった。
「あっ、航平!」
自販機で飲み物を買う沙夜ちゃんに付き添いながら他愛ない話をして、今度こそ教室へ戻ろうとしたときだった。
自販機に向かって歩いてくる人物に私が気付くのと同時に、沙夜ちゃんがその人の名前を呼ぶ。
その声は私の名前を呼ぶものより、ふんだんに甘さを含んだものだ。沙夜ちゃんを見なくても、その表情が愛くるしい色に染まっていることを察する。


