「うん、やめとく。私あんまり泳げないし……」
沈んだ声でそう言う季里。
今日泳いでいるところを初めて見て知ったのだけど、息継ぎが苦手であまり長く泳げないらしい。見ている限り、息継ぎのたびに身体が沈んでしまっていた。
「そっか。……波瑠は? 泳げるなら、ちょっと競争しながら泳ごうよ」
仰向けに浮かんで気持ちよさそうに水に身を任せている真紀は、今度は熱意のこもった声で私に提案してきた。
さっき私が泳げることを知って、競争心に火が点いたのだろう。向けられている期待に満ちた瞳に私は眉を下げた。
「ごめん、やめとくよ。ちょっと疲れちゃって」
ざわざわとした葛藤による息苦しさはもう感じなかったけれど、すっかり疲れていた。
泳いでいたときは平気だと思っていたけど、実際1年ぶりに泳いだ身体は、思っていたよりも頑張っていたらしい。今になって、どっと疲れが出ていた。
やっぱり、泳いでないとだめだな。
いくら水泳経験者と言っても、1年間ちっとも泳いでいないなら素人同然だ。泳ぎ方は身体に染み付いているけど、それに見合う体力はすっかり落ちてしまっているのだから。
水の抵抗を感じながら足をぶらぶらと揺らし、水面に手を滑らせて水と戯れる。
揺れる歪な水の影が、私の足やプールの底に映って輝いていた。
「そっかー、それなら仕方ないね。じゃああたしは、もうひと泳ぎしてくるよ」
「うん。いってらっしゃい」
潔く諦めてくれた真紀が浮かんでいた体勢のまま背泳ぎで進んでいくのを見送る。ごめんね、と胸の内でもう一度謝りながら。
たとえ疲れていなかったとしても、私はきっと競争しながら泳ぐなんて無理だっただろう。それはさっき泳いだときに確信していたことだ。
私、やっぱり泳ぐのは……。
「……はあ」
気が重くて、息を吐き出した。


