ここで息をする



まだ予定の有無についても応援に行くとも私は答えていないのに、勝手に話が進んでしまっている。おろおろと目線を揺らすと、先輩は不思議そうに目を丸くした。


「何だ? 何か予定でもあんのか?」

「そういうわけじゃ、ないんですけど……」

「じゃあ、決定な。……ほら、プールの方に向け。撮影始めるから」

「わ、ちょっ、ちょっと待ってください!」


このタイミングで撮影始めるの!?

話が急に曲げられたような気がしてならない。何も心の準備をしていなかったから慌てて、プールを見つめる“ハル”の心境をイメージする。

だけど水色の水面が揺れている光景を眺めながら脳裏に過ったのは、高坂先輩にはめられたという絶望感だった。

だって私さっき、話の流れで予定があるのかという問いかけに否定してしまった……。そしてそのままなだれ込むように、大会の応援に行くことが決定されてしまっている。

どうして、こうなるのか……。何とか理由を作って、先輩の誘いを断る方法はないのかな。

頭の中から演技のことはすっかり抜け落ちてしまい、たちまち先輩への言い訳に支配されてしまう。

だけど幸いなことに、悶々と考え込む私の姿はまたもや“ハル”に重なっていたようで、この日の撮影は一発オッケーを連発するという優秀ぶりで終わった。







――「波瑠ちゃん、泳げるようになったらまた一緒に泳ごうね。高校でも部活は出来るんだから」

――「そうだよ波瑠、治ったらいつでも戻ってくればいいんだよ。俺らはいつまでも待ってるから」


中学3年の夏。中学最後の大会の欠場が決まったとき、誰よりも励ましてくれたのは沙夜ちゃんと航平くんだった。

幼少期からの付き合いの二人は、人一倍熱心に私に寄り添おうとしてくれていた。