どうしてそんな顔をしてるときにカメラなんて回してるの! しかも私に黙って勝手に撮るなんて……!
怒りの火種がぷすぷすと煙を上げる。だけど先輩には私が怒っていることがさほど伝わっていないようで、へらっと笑ってかわされてしまった。
「わりーわりー。波瑠がいい感じの顔でプール見始めてくれたからさ、撮り逃すのが惜しくてつい先にカメラ回しちまった」
「何がいい感じなんですか……。私別に、映画のシーンに合うような顔をしてたつもりじゃないんですけど?」
「でも、俺にはそう見えたんだよ。ちょうど撮ろうと思ってたのは、物憂げにプールを見つめるシーンだったしな」
開いてある高坂先輩の台本が渡される。“ハル”がプールを見つめる横顔が、絵コンテのページに描かれていた。
「確かに、それっぽい感じだけど……」
「だろ? どうしても撮り直したいんだったら、まず先に映像見てみろよ。自然体でこのシーンの再現が出来てるから、俺は断然こっちの方がいいと思うけど」
そう言うや否や、先輩はビデオカメラを操作して撮ったばかりの映像を流そうとする。
無駄に自信満々な彼の言葉を聞けば、それが映画の一部に相応しいものになっていたのは嫌でも分かってしまった。だから仕方なく、諦めのため息をつく。
「……確認しなくて大丈夫です。もう、それ使っちゃってください」
「見ないのか?」
「いいです。どんな顔してたかは自分が一番分かってますから」
わざわざ客観的に見なくても、自分の感情が露になった顔ぐらい想像出来る。だからこそ不満があったのだけど、高坂先輩の感性がこの映画制作に欠かせないのは幾度の撮影で確証済みなので、これ以上とやかく言う気にもなれなかった。


