「そんなところで突っ立ってないで早くこっち来いよ」
高坂先輩はふっと口元を緩めて言った。たったそれだけのことなのに、本当に心の中を覗かれたような錯覚を起こす。
はっと我に返ると、気恥ずかしいようなこそばゆさで身体がじんわりと熱を帯びた。
「……先輩、何見てたんですか?」
思わず見惚れてしまっていたことを誤魔化すように、出来るだけ平然を装って尋ねた。こんなことを聞いている時点で、先輩を見ていたことを暴露したも同然なんだけど。
先輩のそばに行って同じ窓から外を見てみると、広がっている景色はグラウンドや体育館やプールといったありふれた学校の一部だった。
東校舎の端にあるこの教室からは、近くに位置しているプールが特によく見える。水泳部は午前中だけの活動だったのか、はたまた外部の施設に練習しに行っているのか、今はそこに誰一人の姿もなかった。
水色の四角い世界の水面を、時折吹く生温い風が走って波立たせている。風に乗ってプール独特の匂いが微かに届いたような気がした。
「色々だよ。実際の風景見ながら、今から撮るシーンはどの角度で撮るのがいいか考えてたからな」
「そういえば撮影予定にプールを眺めてるシーンがありましたよね。いいポジションは決まったんですか?」
先輩はビデオカメラを持って席を立つ。
「ああ。波瑠にはここに座ってプールの方を見てもらいたいんだ」
先輩がさっきまで座っていた席に着くように促された。
指示通りに座ると先輩は二つ前の席に移動して、試しにビデオカメラをこっちに向けて構える。「ちょっと待っててくれ」と言いながら操作しているので、どうやら細かい角度の調整をしているらしい。


