ここで息をする



普段カメラマンをしている如月先輩には編集作業もあるし、佐原先輩と田中さんもそれぞれの仕事が忙しそうだから、いっそのことマンツーマンで撮るのもいいかもしれない。短いシーンならその方が効率的だろうし。

こうして高坂先輩が待つ教室へと一人で向かうことになった私は、三人に見送られながら台本を片手に部室を出たのだった。







北校舎から本館を経由して東校舎に入ると、グラウンドや体育館に近付いたからか運動部の活気づいた声がより鮮明に聞こえるようになった。

いつもの癖で自分の教室がある4階にまで上りそうになるけど、慌てて2階の廊下で足を止める。

3年1組の教室は階段のすくそばにあった。開いている教室前方のドアから中を覗き、窓辺の席に着いて外を眺めている高坂先輩を見つける。

教室の電気は点いておらず、空の真上から西へと徐々に傾き始めた太陽の光がうっすらと室内を照らしていた。

ビデオカメラを机に置いて頬杖をつき、朧気な表情で開けた窓の向こうに目を向けている先輩は、そこはかとなくノスタルジックな雰囲気を漂わせている。

そんなどこか絵になる先輩の姿に思わず見惚れてしまい、普段の教室とはどこか違う空気が流れているこの空間に踏み込むことを躊躇ってしまった。今目に映っている世界を壊してしまうことが、何だかもったいなかった。

先輩のその目には今、一体何が映っているのだろう。

視線の先にあるものを見ているようで見ていないような曖昧な瞳だった。考え事をしているようにも見えて、ますます立ち入ったり声をかけて彼の邪魔をしてしまうことに迷いが生じる。


だけど私が二の足を踏んでいる間に、先輩が自ら視線をこちらに向けた。

柔らかな風が先輩の前髪をふわりと流し、綺麗で真っ直ぐな瞳が何もかもを見透かすような力強さを宿して私を射抜く。

胸の奥がざわざわと揺れたような気がした。