「それに映画って、ただ出来上がるだけが完成ではないからね。誰かに観てもらうことで、一つの完成の形に辿り着くものだと思うよ。せっかく頑張って作っても誰の目にも触れなかったらやっぱりつまらないし、部室で眠らせておくだけではもったいないからね。だから興味を持ったなら、ぜひ観てくれると嬉しい」
如月先輩は柔らかく笑む。弧を描いた一重の瞼の下の瞳には、よく高坂先輩から感じ取る一途な思いと同じ光が宿っているようだった。
好きなものを“好き”だと胸を張って言える人の、誇らしげな瞳。こんなにも真っ直ぐな思いを向けられたら、遠慮して借りないなんて道を選ぶはずがない。
「それじゃあ、お言葉に甘えてお借りします。まだ映研部の映画を一つも観たことなかったから、いつか観たいなって思ってたんですよ」
如月先輩に勧めてもらえてむしろラッキーだった。
高坂先輩に出演依頼されたときに過去作の話をしてもらえなかったし、撮影が始まってからも観る機会がなかったけど、映画作りの世界を知るたびに実は気になっていたから。映画研究部の人達は今まで、どんな世界を作り上げてきたんだろうって。
せっかく知らなかった世界に縁あって入ったのだから、先輩達がどんな映画を作ってきたのか観てみたい。キャストではなく観客として、一度この世界を味わってみたかった。
とりあえず、現役の映画研究部のメンバーが携わった映画を借りていくことにした。ちょうど田中さんから受け取っていた1枚のDVDに、前年度制作した映画が収納されているみたいだったから。
ケースに貼られているシールには、ショートフィルムという見出しの下にいくつかのタイトルと、去年1年間の日付が並んでいた。


