ここで息をする



「未だに本を見ないと扱い方も作り方もよく分からないし、大したものは作れないんだけどね」


“シンセサイザー入門”と書かれた本を開きながら謙遜するものの、佐原先輩は慣れた手付きで鍵盤やらたくさんあるつまみやボタンを操る。

この部屋に初めて入ったときに見かけて電子ピアノだと思っていたそれはシンセサイザーという音を合成する電子楽器だったらしく、私が部室に到着したらすでに佐原先輩がそれに向かって作業していた。

その隣にはもう1台のノートパソコンを駆使して今まで撮り溜めた映像を編集する如月先輩、さらにホワイトボードに色々書かれているメモ書きを見ながら紙に新しい絵コンテを作成している田中さんの姿もある。

私は午後1時が集合時間だと告げられていたけど、どうやらみんなは午前中から来ていたようで各自が担当の仕事に没頭していた。いつも撮影の前後や撮影がない日にこれらの作業を進めていたらしい。


普段の撮影では見かけない映画作りの過程を見たり話を聞いて、その繊細で奥深い作業の数々に私は感心してばかりだった。キャストとしてこの映画の世界に関わらせてもらっているけど、まだまだ何も分かっていなかったみたい。

撮影したカットを繋げてシーンを作り、さらにシーンを順に繋いで映画のストーリーを組み立てていく編集作業。

出来上がった映像の雰囲気に合わせた音楽作り。

急遽撮影の加減で変更になったシーンに合わせて、絵コンテの細かいリメイク。

撮影とはまた違う形で、ここにもすごいと思える世界が広がっていた。

それぞれが真剣に作業して作られていく映画には、みんなの“好き”がたくさん詰まっているんだろうなと、引き付けられる魅力的なそれぞれの姿を見ながら改めて感じた。