きっかけはもちろんあの強引一途な監督との出会いだけど、高坂先輩に負けじと必死に制作する他の部員達の姿勢に感化されたり、航平くんや水泳部の人達とともに水に触れ合う時間を通していくうちに、私の中で何かが変わっていったのは確かだ。
“好き”に向き合う人達のそばに居ると、自分が手放した“好き”への思いが疼く。
「一番大事な気持ち……か」
さっきまで演じていた“ハル”の余韻が、自分の中の感情と繋がるような不思議な感じがした。“コウ”の言葉はどれも、私自身にも向けられているような気分になる。
自信喪失が原因で水泳を好きな気持ちを忘れかけていた“ハル”と、息苦しさにやられて逃げるように好きな気持ちを手放した私。
状況は少し違うけど“好き”という思いがネガティブの引き金になっているのが同じだからか、“ハル”として“コウ”の言葉を聞いていると度々どきりとするんだ。私の胸の内すべてを見透かされているような気がして。
たまたま台詞に心境が一致しているだけだろうけど……。
「どうした、ぼんやりして。気分でも悪くなった?」
少し前にも台詞で聞いたような言葉に反応して徐ろに声の主を探すと、ちょうど航平くんが隣に腰を下ろしているところだった。カットがかかってすぐに航平くんがどこかへ立ち去った姿は見ていたけど、考え事をしていたせいで戻ってくる気配には全然気付いていなかった。
私の顔色を窺っている航平くんに、強がりでもなく素直に笑いかける。
「違うから大丈夫だよ。ちょっと暑いなぁとは思ってたけど」
「日陰に移動しようか?」
「そこまでじゃないから平気。こうやって水に浸かってたら大丈夫だから」
プールの縁に腰かけたまま、プールに入れている足をぶらりと揺らしてみせた。


