それに結局、私が楽しいと思えるようにならないとこのシーンの問題は解決しないわけで、余計にプレッシャーを感じてしまうのだけど……。
先輩の言葉は問題突破の鍵のような気がするのに、私の目の前に立ちはだかっている大きな門を開くためにそれを使えるのかはいまいち分からない。試すのさえ不安で躊躇ってしまう。
私はちゃんとその門の鍵穴に、正しい向きで鍵を差し込めるのだろうか。自分の手で、その門を開くために。
「そろそろ泳ぎに行くか。あんまりここで休憩しすぎてるとまた一斉休憩の時間に被って、すぐプールから出る羽目になりそうだしな」
先輩が立ち上がったのをきっかけに、考え込んでいた私も一緒のように立ち上がった。深呼吸をして、忘れないようにと呟く。
「私が好きなように……」
あまり考えすぎるとまた思うように泳げなくなってしまいそうだけど、先輩の言葉に縋るように自分にそう言い聞かせた。
今、私がどう泳ぎたいのか。あの水の世界で、どんな風に過ごしたいのか。
手放して以来考えないようにしていた、あの世界へ馳せる自分の気持ちに久しぶりに会ったような懐かしい感じに浸りながら、私は水の世界へと向かっていった。
正午近くになると昼休憩をする人が増えたのか、プール内の人口は朝方よりも少なくなってきていた。レーンによっては先輩と二人で貸切状態になったりもして、練習するにはもってこいの状態になっている。
私達は特に言葉を交わすこともなく、黙々とレーンを何往復もしていた。好きなように泳ぐと言っても、自分のペースを維持しながら泳いでいるだけ。
これでは演技の練習というよりも、ほぼ水泳の練習になってきているような気がする。先輩は遊ぶつもりで泳げばいいと言っていたけど、もはや遊泳って何だっけと私は思い始めていた。


