「先に軽く泳いどくか?」
「そうですね。いきなりシーンの練習するよりは、その方がいいですよね」
あんまり長く泳いでいると息苦しさを感じるようになってだんだんつらくなってきそうだけど、アップのためなら仕方ない。気持ちより先に身体がばててしまうのも問題だ。
準備を怠って無理矢理泳ぎ、それで身体に負担をかけてしまったら大変だ。……あの頃のように。
「……っ」
余計なことを思い出してしまい、甦りかけた記憶の断片を慌てて振り払う。早くもプールに入っている先輩に続いて、そのレーンに並んだ。
私が後ろに居ることを確認してから先輩が出発する。クロールを手こずるわけでもなく悠々と泳ぐ姿を見て、今更ながら先輩って泳げたんだ、と思った。
演技指導と言えども人の泳ぎ方にも細かく注文するんだから、そりゃあ泳げるはずだよね。今日だって自ら特別レッスンを持ち出したくらいだし、もしかしたら泳ぎは得意なのかもしれない。
ぱっと見た感じ、水泳経験者の私の目には十分上手いと思える姿が映っていた。綺麗なフォームで悠々と水中を進む姿に感心する。
「……よし、頑張ろう」
先輩がレーンの半分を過ぎたところで、自分を励ますように小さく呟く。それから息を吸い込み、私も壁を蹴ってスタートした。
屋内で水温が一定に保たれているプールの水に包み込まれると、何だか心地が良い。それからしばらく、身体の調子が整うまでゆったりと泳いでいた。
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アップを含めて練習時間が約1時間近く経った頃、プールの一斉休憩の時間になった。
一つのシーンの動きを一通り教わり、実践し終えたきりよいタイミングだったこともあり、プールサイドに上がるだけでなく休憩スペースに移動して休むことにした。
ジャージを着てベンチに座る。お互い水分補給をしながら持参していた台本を開き、練習したシーンの確認に入った。


