確かに前もってどのように泳げばいいのか教えてもらっておけば、当日はうんと楽になるだろう。先輩の指示通りに泳げずに苦労した自分を思い出すと不甲斐ないし、この練習は私自身のためにもなると分かる。
……だけど私は、どうしても乗り気になれなかった。
何せ場所が、プールだ。水中に居れば居るほど、あの息苦しさは当たり前のように私を襲ってくる。その根本的な問題は何一つ解決していない。
水泳をやめてからでも身体が泳ぎに適応していることはこれまでの授業や撮影で分かっていることだけど、心だけはまだあの頃に置き去りのまま。完全に私があの水の世界に戻れたというわけではないのだ。
そんな状況でこんな練習だなんて、大丈夫かな……。
撮影よりも長時間になりそうだし、練習で演技も入っていると言っても、メインはほぼ泳ぐことだ。
撮影本番では台詞を間違えないようにとか演技のことばかり考えていたから、ある意味よかったのかもしれない。今の方がずっと水の世界を意識して、身近に感じていた。それが私を、無性に不安にさせる。
私はここで、ちゃんと息が出来るのだろうか。
市民プールには四つのプールがある。
屋外に50メートルプールと幼児用プール、屋内に25メートルプールと多目的プールだ。
先輩が向かったのは25メートルのプールだった。学校のプールと同じ。撮影するときの状況に合わせたのかもしれない。
プールがある部屋に入り、ぐるっと見回す。このプールは水深が低いからか、子供から大人まで様々な人達が居た。やっぱりそれなりに混んでいて、みんな他の人と適度に距離を取りながら泳いでいた。
今日は先輩も泳ぎながら指導してくれるようで、一緒に準備体操をする。そしてシャワースペースでシャワーを浴び、いざ練習を始めようとしたタイミングで先輩が口を開いた。


