ここで息をする



どうしようもなく苦しくなって逃げたくなってしまったら、その背中を目印に辿っていくから。――自分を奮起して、前を向いて頑張っていくための糧にするから。

決意を込めた私の言葉を真っ直ぐ受け止めてくれた先輩は、口元を緩めて軽く頷いた。


「言われなくても、撮影のためならびしばししごくつもりだよ。嫌がっててもどんどん引っ張ってってやるから安心しろ」

「いや、さすがに嫌がってたら気に掛けてほしいです……」


すっかりいつもの先輩に戻ったらしい得意げな返事に、末恐ろしい未来を想像してしまう。全然安心なんて出来やしない。

さっき赤くなっていた先輩よりも私の方がとんでもない失言をしてしまった気がして、言ってしまったことに苦笑して青ざめた。

そんな私の顔を見た先輩は、何が面白いのか知らないけどとりあえず楽しそうに笑っている。

それがいいのか悪いのか分からなくて複雑な気持ちになりつつも、私も最終的には先輩と似たような感じで笑っていたと思う。

そうやって笑いながら話しているうちに、職員室が目前に迫っていた。


「……そうだ、次の日曜日って空いてるか?」


廊下の先の職員室を捉えた視線を隣の私へと移した先輩が、何かを思いついたように切り出した。廊下の壁際で徐に先輩が立ち止まるので、私も壁に寄り添うように立つ。


「日曜日ですか? 確か、空いてると思いますけど」


その日は映画の撮影もないし、今のところ真紀や季里と遊ぶ予定や用事なども入っていないと記憶している。

まだ手つかずの夏休みの宿題をそろそろ進めようかなぁと、大してやる気も出ないままぼんやりと考えている程度だ。たぶん実際は、一日中だらだらと過ごして終わるだろうけど。