「うう、暴力反対……」
「波瑠がいつまでも笑うからだろ」
別に、先輩を馬鹿にして笑ってたわけじゃないのにな……。そう思ったけど、それを口に出したらどうして笑っていたのか追及されそうだから口を噤んだ。
先輩が可愛いかったから、なんて言ったら、次は何をされるか分からない。だから代わりに、先輩の機嫌がよくなることを願いながら別の思いを言っておくことにした。
「……先輩はこれからも、自分が思うように指示を出してくれたらいいですからね」
「わがままなのに?」
「それはそうだけど……。でも、それが高坂先輩だから。好きなことに熱くなれる先輩が真剣に教えてくれるから、私もちゃんと“ハル”として演じられているんだと思います」
先輩は私が役に入り込んでいると言ってくれたけど、そうさせているのは指導してくれている先輩の力だ。
私が自然なままでいいのなら、先輩の方こそ自然体でいてもらわないと困る。先輩の言葉は、先輩自身が行動で示してくれるからこそ、周りに居る人達に影響を与えているように思うから。
「私、まだまだ下手だしミスもするけど、最後まで頑張りますから。だから先輩、こんな私でよければ、最後まで引っ張っていってくださいね」
この映画の世界に引っ張ってきたのは、高坂先輩。飛び込む決意をしたのは私。きっと一人では飛び込む勇気など持てずに、水泳をやめたときのように逃げていただろう。
でも、先輩が居るから。羨ましいぐらいに真っ直ぐな彼に知らず知らずのうちに引き付けられているから、私は今もここに居られる。
だったら映画が完成するまで、先輩にはずっと前を向いて突っ走っていってほしい。人の目なんて気にせず一途に思いを貫き通す、ありのままの彼のままで。


