ある意味正しいと思えるようなことを言っているし、演技の指導も的確だと思っている。だから最近では、不平を漏らすようなことはなかった。
……まあ、心の中で反抗するようなことなら、今日の撮影中みたいに時々あるけどね。
てっきり先輩としては自分の発言がどんなものか気にしていないのだろうと思っていたけど、案外気にしていたのなら、何だか可愛げがあるなーなんて思ってしまった。
「わ、悪かったなわがままで。熱中すると妥協すんのが嫌になって、ついつい言うことに歯止めが利かねーんだよ」
自分の言葉が失言だと感じたのか、先輩はむすっとした顔につきになる。
もしかして怒らせちゃった?
しまったなと思いながらよくよく横顔を見つめてみると、ほんのりと耳が赤くなっていることに気付いた。どうやら、指摘されて照れているらしい。自分で無茶ぶりを認めていたのに、人に言われると恥ずかしいようだ。
……こんなことで照れるなんて、やっぱり可愛いところがあるなぁ。
くすぐったさが全身に広がってむずむずする。おかげで緩んだ口元がなかなか戻らずにいつまでもくすくすと笑っていたら、コツンと頭に軽い衝撃を与えられた。
「……笑うな、ばか」
まだ私の頭上に残っていた先輩の右手の拳の下から、その表情を覗き見る。さっきまでは耳だけ赤く染まっていたのに、今では……。
「先輩、面白いぐらい顔も首も赤いですね」
「暑いからな」
「……ふはっ」
ちょっと無理があるような誤魔化し方にまた笑ってしまうと、再度お仕置きされてしまった。コツン、じゃなくて、ゴツンって音が聞こえた。今度は手加減なしだったようで結構痛い。


