ベンチが置かれていた休憩スペースの屋根の下から太陽が照らす世界に飛び出すと、まだ座ったままの彼に振り返ってにっと笑ってみせた。
やや引きつっている笑顔は、“コウ”の瞳にはさぞかし空元気として映ったことだろう。だけど今だけ、少しでも自分の気持ちを誤魔化せるのならそれでよかった。
『……“コウ”には、言えないよね』
ベンチから離れてプールに向かう道すがら、ぽつりと言葉を漏らす。
“コウ”には分からない。――でも、本当は分かってほしい。
悩みを聞いてほしい。――でも、迷惑にはなりたくない。
相反する気持ちに振り回される“私”は、“コウ”には見られないように一人で苦しげに顔を歪めることしか出来なかった。
***
「あれ、高坂先輩だけですか?」
今日の撮影がすべて終わり、プールの更衣室で制服に着替えて外へ出ると、高坂先輩が女子更衣室の隣の男子更衣室の扉にもたれかかっていた。
周りを見渡すけれど、他には誰一人の姿もない。水泳部は昼休憩で全員がプールの敷地から出ているから、辺りは不思議な静けさに包まれている。
航平くんは撮影を終えると少し遅れて水泳部の昼休憩に入り、撮影隊の私達とは解散して昼食を食べに向かった。だけど、他の映研部のみんなは片付けをしていたはずだ。その気配を感じられなくて首を傾げていると、プールの敷地の金属扉を指差した高坂先輩に外に出るように促された。
「みんなは部室に荷物運びに行ってるよ。俺はプールの鍵締めて返さなきゃいけねえから、波瑠を待ってたけど」
「そうだったんですか。待っててもらってありがとうございます」
二人でプールの敷地を出る。


