きちんと練習をしていても、実際はただ泳ぐだけ。本気を出していようが出してなかろうがタイムはさほど変わらなくて、所詮自分の限界はここなのだと悟って虚しくなったりもして。それならもう、頑張る必要なんてないような気がした。
どうせタイムがいい意味でも悪い意味でも変化しないなら、気付く人なんて誰も居ない。こんな“私”を叱咤してくれる人なんて、居ないと思っていた。
だけど今、隣に居る“コウ”はしっかりと“私”の変化に気付いている。
自分の能力の限界も、悩みを誰かに都合よく気付いてもらうことも諦めかけていた“私”には、喜ばしいことなのかもしれない。だけど相手が“コウ”であることが複雑な感情の種となり、彼の言葉に素直に頷くことを拒んでしまった。
下を向いたままの顔がしかみ、奥歯を噛み締める。強張った身体から力を抜こうとすると自嘲の笑みが漏れた。
『……そうだって、認めればいいわけ?』
ため息を落とすように絞り出した声は重い。ずっと身体の内部に沈殿していた感情が、外に吐き出されてもなお“私”を押し潰そうと言葉に纏わりついているようだ。
もうずっと前から、スランプから抜け出せていない。だけど言葉にして認めて“コウ”に伝えてしまうと、“私”の中で決定的な何かが終わってしまいそうで……。
強気に“コウ”を見た。
『でもそんなの、“コウ”には関係ないことでしょう?』
『関係ないなんて……』
『大事な時期なんだから、もっと自分のこと気に掛けなよ。人の心配してたから優勝逃したなんて言い訳、絶対に聞きたくないからね!』
最後はからかうように言って一方的に話を終わらせると、“コウ”の背中を叩くというおまけを付け加えてから立ち上がった。
『さあ、後半も頑張って泳ぐよ!』
鼓舞するように声を出す。


