ここで息をする



だからこそ私が息苦しくなり始めた頃に、ちょうど撮影もオッケーが出たのかもしれない。私と“ハル”が一番重なっていたあのタイミングで。


……それにしても、どうして先輩は知っていたのだろう。水泳をやっていたという、泳ぐ姿を見ただけでは分からないような明らかな情報まで。

もしかしてこれも航平くんに聞いたのかな。でも聞いていたなら、プールの授業のときにわざわざ私が泳げるかなんて見て確認しないよね?

じゃあ、あとで知ったのかな。航平くんがぽろっと話したとか……。

脳内はさっきまで練習していた台詞ではなく、何故か私の経歴を知っていた高坂先輩への疑心で埋め尽くされていった。

そもそも現役部員ではなく、泳ぐ姿を確認してまで水泳部員ではない私を選んだのは何故だろう。先輩の中の“ハル”のイメージに関係しているのかな。

“コウ”よりも水泳の実力が劣っている設定の“ハル”だから、あえて現役で泳いでいない人物を選んだってことなのだろうか。“コウ”の役には現役水泳部員で大会入賞者でもある航平くんを選んでいることを考慮しても、それならまだ納得出来るし……。

先輩の中のイメージも真意は相変わらず謎のままだけど、仮にそこまでこだわっているのだとしたら好きも極めるとすごいものだとつくづく驚かされる。

果たして先輩が期待している“ハル”に私が応えられているのか定かではないけど、どうせなら選んでよかったと思われるようになりたい。そう小さく決意すると、自分の役目である“ハル”になるための準備を始めた。



***



『おまえ、やる気あんの?』


部活の休憩中、プールサイドのベンチに座って水分補給をしていたら突然目の前に誰かが立った。

いきなり苛立った声で言われた一言にかちんときて、その相手を見上げてきつく睨む。“コウ”も“私”に負けじと、鋭い目つきで見下ろしていた。