―――明け方近く。


こっそりと物音を立てないように花屋に戻る。


軽くシャワーを浴びて寝ようと、脱衣所に入ると、背後から抱き締められビクッとする。


壬言さんだ。
待っていてくれたのか。


「気が気じゃなくて悠長に寝てられねえ…酒くせえ、香水くせえ、煙草くせえ……」


なんとなく声が怒っている。
そういえば、私もそんなに強くはないけれど、壬言さんはお酒はほとんど飲まない。


仕方ないじゃないですか、これもお仕事で、むしろ頼まれて逆らえなくてしてるんだから。


とも思ったけれど、ついさっきの左樋さんの一件を思いだし、何も言い返せなくなってしまった。


―――これも浮気って言うんだろうな。


「…男物の香水の匂いが強い。接客くらいでつかねえ匂いだぞ」


耳元で囁く。


「……まさかてめえ、初仕事から…浮気したんじゃねえだろうな」


ピクリと反応してしまった。
慌てて離れると、


「そ、そんなわけないでしょう!?」


舌打ちすると、壁ドンされた。


「……っ!!…ホントだろうな…」


ううっ、左樋さんの感覚が生々しくデジャヴする。


「し、シャワー浴びるから…」


言い終わらない唇を塞がれる。
今までにない、長い激しいキスだった。