「あ、…め、」 雨を見ると思い出すのはたった一つの顔で。 だけど浮かんできた顔に、もう苦しさはなくて―。 「どうよ。雨は」 「うん…きれい」 降ってくる雨。 一つ、一つ、目に焼き付ける。 「あの頃の…雨だ、…っ」 目の前に降り注いでいる雨は、なぜか懐かしい匂いがして。 それは空雨と笑いあっていた頃に降っていた雨の匂い。 上を見上げて、空を見る。 何も言わず、ただ見上げる。 手を差し出すとその上に乗ってくる一筋の雫。 冷たい、そう感じる。