「懐かしいわねぇ…空雨くんもお赤飯お代わりしてよく食べていたわよね」
今までずっと出てこなかった、お母さんの口から久しぶりに聞いた空雨の名前。
その瞬間私は、背筋がゾゾゾとして手が止まる。
言葉が出ない。
お母さんの前で空雨の話なんて、何を話せばいいの?
さっきまで空雨のことを思い出しても平気だったのに、今は身体が固まって何も言葉がでない―…
怖い。
そう思った。その時―…
「空雨くんって子、そんなに家族ぐるみだったんですね~」
出された味噌汁を飲みながら、優子が言葉を続けた。
「そうなのよ!雫ったら昔から空雨くん空雨くんて…」
「はははっ!もう大好きだったんですね。空雨くんのこと」
「そうなのよ。まあ、だから、…ね」
その後に言いたい言葉がすぐにわかったから、口を強く結ぶ。
やっぱり…変な空気だ。
居たくない。逃げ出したい。
あぁやっぱり…、空雨のこと、思い出すにはまだキツイな。
なんでだろう。さっきまでは全然大丈夫だったのに。
涙が出そう。泣いちゃいそうだ。
だけどすぐに、そんな空気を優子が吹き飛ばしてくれた。

