「空雨には困らされることばっかりだったよ」
小学校にあがっても、中学にあがっても…その好奇心旺盛は直ることをしらなくて。
色んな恐ろしいものに、一緒に挑戦させられたっけなぁ…
「それで?その猫はどうなったの?」
「あー…確か、旅館の人が助けていたはずだよ。」
「へぇ…でもさ、あるじゃん、たくさん良い思い出」
運ばれてきたパンケーキをお皿にわけながら、優子は言う。
うん。言われてみれば、そうなのかもしれない。
今まで思い出すのは苦しいことばかりが多かった。
だけど、
ふと思えば空雨との思い出はたくさん、あって。
「私、笑ってた。空雨も、一緒に笑ってた」
空雨の苦しい顔ばかり思い出して空雨の笑った顔、忘れてた。
「家に帰ったら見せてよ、アルバム」
「…うん。私も久しぶりにみてみよう、かな…」
「じゃあ今夜は語りつくそうー!」
まさか、こうやって空雨のことを、空雨との笑顔の思い出を話せる日がくるなんて思ってもいなくて。
きっと空雨は私を許してくれない。
謝れる明日はもう、こない。
あぁ、それでもいい。
少しずつ少しずつでいい。私の中にいる空雨との思い出を良い思い出にできるように私は生きていく。
空雨。私は空雨を一人にしないよ。絶対に忘れない。
私のこと許してくれなくていい。怒っててもいい。だからそこにいて。傍にいて。私を見てて。
空雨が許してくれなくても私少しずつ一歩前に進むよ。
だって私の人生は、まだあるんだから。
私は優子にわけてもらったパンケーキを一口、口に運んだ。

