「茜も降りて」
ドアの外から聞こえる優也の声はいつもの様に優しい声だ。けれど、茜には優也の顔は見えない。どんな表情でそんな優しい声が出せるのか不思議だった。
茜は優也がこの旅行を望んでいないのが良く理解できた。
会長である祖父からいきなり突きつけられた結婚に新婚生活。今度は新婚旅行だ。これまで面識がなかった二人の生活が一変した上に旅行までさせられるのだから、もしかしたらいい迷惑なのかもしれないと茜はそんな風にしか思えなかった。
ましてや、この年齢差だ。一回りも違う年齢の相手に優也は一緒にいても楽しくないだろうと思えた。
政略結婚で辛い思いをしているのは茜だけでなく優也もそうなのだと改めて思い知った。
「茜?」
「ねえ、優也さん、旅行先ってどこなの?」
茜は祖父の言いなりに旅行をする気はなかった。それに、もっと優也とは仲良くなりたかったし、楽しい旅行さえできればそれで十分だと思えた。
「早く家へ戻って旅行先を考えましょうよ!」
茜の笑顔に優也は慰められている気分だった。まだ、あどけない表情をする茜に心配をかけてはいけないと優也も笑顔で応えていた。



