「わりぃ。遅くなった」


「今日から1年が見学に来るから早く来いって言ったろーが」


すまなそうに謝る望月さん。


「ほらっ望月くんも自己紹介!」


奈子先輩に言われ望月さんも挨拶する。


「お、おう。副部長の望月です。分かんないことがあったら何でも聞いてな」


切れ長の目を細くして笑う。


「ねえ、望月先輩かっこよくない?」


茉凛ちゃんが小さな声で耳打ちする。


やっぱり誰から見ても望月さんはかっこいいんだな。


もてるだろうな。


彼女とか…いるのかな。


そんなことを考えながらうつむいていると、目の前に私の顔をのぞき込む彼がいた。


「ひなた…?どうしたそんな暗い顔して」


「へ…?」


今、『ひなた』っていった…?


もしかして


「覚えててくれたんですか…?」


私がそう聞くと


「当たり前だろ。約束したもんな」


優しい笑顔で私の頭に手を置く。


やばい。


絶対顔赤い。


「え!なになに!ひなたちゃんと望月先輩知り合いなの!?」


大きな瞳をさらに大きくして驚く茉凛ちゃん。


「うん。まあちょっとな」


茉凛ちゃんにも笑いかける望月さん。


「同中だったんですか?」


「うーん。違うよ」


「え!じゃあなんで知り合いなんですか?」


質問を続ける茉凛ちゃんに望月さんは


「なーいしょ」


唇の前に人差し指を立ててウインクしながら言った。


あの時のことは秘密にして欲しいっていう私のお願いも覚えていてくれたんだ…。


「なーにニヤニヤしてんのひなた」


望月さんはまた私の顔をのぞき込む。


「い、いえ!何でもないです!」


「へんなの」


望月さんも茉凛ちゃんもなぜだかすごく笑ってる。


ああもう!


絶対変なやつだって思われた!


「ほらそこ!イチャイチャしないの!練習再開するよ!」


奈子先輩の大きな声で練習は再開された。


私と茉凛ちゃん、そして入部希望の男子達はその練習をただただ見学していた。


時折茉凛ちゃんは「ナイッシュー!」とか「きゃー」とか黄色い声援を送っている。


私にはできないな。


茉凛ちゃんみたいな子がマネージャーだったらきっと選手も頑張れるんだろうな。


茉凛ちゃんみたいな子がもてるんだろうな。


きっと望月さんも…。


テンションの低いまま見学時間は終了し、茉凛ちゃんと途中まで一緒に帰ることになった。