揺れる電車の中、私たちの間には沈黙の時間が流れる。
あの話切り出さなきゃいけないのに。
気まずいよ。
「あのさ」
望月先輩が沈黙を破った。
「昨日のことなんだけど」
望月先輩からその話題に触れるとは思ってなかった。
動揺してる。
「忘れて欲しい」
え?
忘れる?
無理だよそんなの。
だって
「ファーストキスだったんですよ…」
忘れられるわけないよ。
『ファーストキス』という言葉に反応したのか望月先輩は私の方を見た。
「最低だ。俺」
そう言って下を向く望月先輩の顔はなんだか切なくて
「嫌じゃなかったんですよ」
そう言ってしまった。
『嫌じゃなかった』なんて言い方嫌だけど。
今はこの言い方しかできない。
茉凛ちゃんダメだ。
やっぱり怖いや。
ほんとは『嬉しかった』って言いたい。
『あなたがファーストキスでよかった』って言いたい。
けど今は言えない。
「ホントにごめんな」
そう謝ってから望月先輩が口を開く事は無かった。