ーひなたsideー


「そのまま海斗の意識が戻ることはなかった」


茉凛ちゃん。


そんな過去があったなんて。


そんな素振り見せなかったのに。


まあ、簡単には見せられないよね。


泣いてるもん。


辛かったよね。


「ありがとう話してくれて」


「うん」


涙をぬぐいながらも笑顔で返事をする。


「私は幼なじみっていう楽で幸せな関係に溺れて海斗を、大切な人を失ったんだって思ってる。」


「そんなことないよ」


「早く『好き』って言えてればなにか変わったかもしれないもん。ずっと後悔してきたんだ。だからね」


茉凛ちゃんはがしがしと涙をふいた。


「ひなたちゃんには絶対後悔して欲しくないの!人ってさ、突然いなくなっちゃうんだよ。望月先輩が誰かに取られてからじゃ遅いんだよ。後悔したってどうしようもないの!」


「茉凛ちゃん…」


「好きな人の気持ちを知るのって怖いよね。わかる。でもさ、勇気出して欲しいんだ。私みたいにならないように。おせっかいかもしれないけど」


茉凛ちゃんは好きな人を失う怖さを知っている。


私は今そばにいられてるけどいつ別れが来るかもわからない。


迷惑だって思われるかもしれない。


怖い。


大切な人を失うことが。


大切な人の気持ちを知ることが。


「私さ、でしゃばったこと言える立場じゃないけど、一つだけ言わせて」


「うん。どした?」


「私は茉凛ちゃんが大好きだから幸せになって欲しい。茉凛ちゃんの笑顔が見たい」


「何よ急に」


私にとって茉凛ちゃんは望月先輩と同じくらい大切だから。


「私、望月先輩に昨日のこと聞いてみるよ。だからさ、茉凛ちゃんも勇気を出して」


「え?勇気って?」


知ってるよ。


茉凛ちゃんが宮本先生を好きなこと。


最初の頃は周りの女子に合わせて好きだって言ってるんだと思ってた。


でも、違うよね。


茉凛ちゃんが宮本先生を見ている時の瞳。


あれは恋してる瞳。


「茉凛ちゃん。好きなんでしょ宮本先生のこと」


「な、なんで知ってるの?!」


瞳大きすぎ。


「茉凛ちゃん前に言ったでしょ『ひなたちゃんのこと理解したいって思ってる』って。私も同じだよ」


「ひなたちゃん?」


「茉凛ちゃんのことが大事だから理解したいって思ってる。茉凛ちゃんの恋も応援する」


茉凛ちゃんは下を向いてしまった。


ぽたぽたと大粒の涙が茉凛ちゃんの手の甲に落ちる。


「ひなたちゃん!ありがとう。先生を好きになるなんていけないことなのに。でもね、先生海斗に似てるの」


私は茉凛ちゃんを抱きしめた。


「みんなが反対したって私は茉凛ちゃんを応援する!」


「ありがとう。ありがとう」


私たちはそのまま恋バナに花を咲かせていた。