「茉凛なに食べる?」
コンビニのお菓子コーナー。
何かを買う時、海斗はいつも私の意見を優先してくれる。
「チョコ食べたい」
「俺も食べたいって思ってた」
嘘つき。
甘いの苦手なくせに。
それくらい知ってるよ。
何年一緒にいると思ってるの。
「あとポテチ」
いろんなお菓子を買い物カゴに詰め込む。
「こんなもんでいいかな」
とレジへ向かう海斗。
たった5分前のことがなかったことのよう。
いつも通りの海斗。
ドキドキしたのは私だけか。
ダメだ。
気になる。
けど、まだこの幸せな気持ちに浸ってたくて聞くのをやめた。
お会計を済ませ、コンビニから出る。
と、さっきまで晴れていたはずが土砂降りになっている。
「うっわ。最悪」
海斗の顔が曇る。
「傘持ってきてねぇし」
「大丈夫持ってきたから」
ふふん、と海斗を見る。
「1個だけじゃんか」
「相合傘すれば大丈夫」
「じゃあ俺お菓子とかジュースとか持つから茉凛傘持ってて」
と言って私の持っていたコンビニの袋を持つ。
「ありがと」
周りの友達から見れば相合傘など付き合っている人同士でなければ恥ずかしいらしいけど、幼なじみの私たちにとっては当たり前の光景。
昔から幾度と無く相合傘をしてきた。
今更恥ずかしがることもない。
はずなのに、キスされたせいでなんだか落ち着かない。
海斗もいつもの海斗じゃないみたいで辺りをきょろきょろと見回している。
そのせいだ。
前からやってくる“あれ”に気づかなかったのは。
完全に不注意だった。
土砂降りで視界が悪く、相手も私たちに気が付かなかったんだろう。
「茉凛っ!」
気づけば私と海斗の身体は水浸しの道路に投げ出されていた。
今朝と同じような構図で。
でも私と海斗の間に隙間なんて1ミリもなくて。
海斗は私にぴったりと覆いかぶさっていた。
私にもたれ掛かるように倒れる海斗の頭からは血が流れていた。
さっき買ったばかりのお菓子が散らばっている。
私の傘も骨が折れて放り出されている。
「海斗!かいと!!海斗!」
取り乱しながら名前を呼ぶ私の頬には涙が。
雨と混ざって何がなんだかわからなくなってる。
私はゆっくりと海斗の体をひっくり返して頭を膝に乗せる。
「海斗!しっかりして!」
私たちとぶつかった大型のトラックからはヒゲの生えた男性が降りてきて、救急車を呼んでいる。
海斗。
死んじゃうの?
まだ私、キスの理由聞いてないよ?
なんで私にキスしたの?
まだ私、海斗に好きって伝えてないよ?
海斗。
海斗。
目を開けてよ。
「ま…りん…」
意識を取り戻した海斗の腕が私の頬に触れる。
「海斗!しっかりして!死んだらやだよ!ねえ!死なないよね!?」
私の問いかけに海斗はふにゃと笑って
「これはやべーな。目が霞んでる」
「やだ!海斗が死ぬなんて!」
「茉凛…落ち着け…」
こんな状況で落ち着けるわけないよ。
ねえ海斗。
ほんとに死んだりしないよね?
これからもいっぱい喧嘩してほっぺたつねりあって、それでも優しく微笑んでくれるよね?
私のそばにいてくれるよね?
「ま…りん」
海斗の腕が頬から私の頭の後ろへとまわる。
そのまま私は海斗の弱い力に引き寄せられてキスをした。
二回目のキス。
「茉凛。好きだ。お前が無事でよかった」
私が無事でも海斗が無事じゃなきゃ意味無いよ。
好き
この言葉が聞きたかったはずなのに全然うれしくない。
「私も好きだよ海斗」
こんな時じゃなきゃ嬉しいはずなのに。
涙がとまらない。
嬉し涙なんかじゃなくて、悲しい涙。
悔し涙。
私がもっと早く好きだって伝えてれば
私がしっかり前を見て歩いていれば
私が傘を2つ持ってきていれば
そもそも私が海斗とおつかいにでなければ
大人しく家で宿題をしていれば
何かが変わっていたかもしれない。
「海斗!私のこと好きだったらそばにいてよ!」
既に後悔したって意味が無いことはわかっている。
けど、私をかばってくれたのに。
「茉凛。そればっかりは…も…うダメかも…しれな…い」
だんだん衰弱していく海斗。
そんな海斗を見ているのが辛いよ。
「茉凛…ホントにお前が好…」
海斗の意識はそこで途絶えた。