「ひなたって意外と抜けてるんだな」
「ぬ、抜けてないですよ!」
提出物とか忘れたことなかったんだけどな。
茉凛ちゃんのことが気になって…。
これはいい訳にしかならないか。
私は今入部届けを握りしめている。
が、望月先輩は持っていないようで
「望月先輩、入部届け持ってますか?」
と聞くと
「教室。書いてすらいない」
なんですと。
「2年も出すってことすっかり忘れてた」
ははっと笑う望月先輩。
笑ってる場合じゃない気が…。
「教室ついてきてよ。俺ああいうの書くの苦手なんだ」
「わかりました」
え!?
これは…。
望月先輩とふたりきり?
心臓持たない気がする。
「2年生の教室って緊張しますね」
「誰も居ないから大丈夫」
誰も居ないから余計緊張するんだけど…。
入口の前で立ち止まっている私の手をひいて教室へ入る望月先輩。
触れられたところが熱い。
多分顔も赤い。
こんなんじゃ望月先輩にバレちゃうよ。
望月先輩が見ていなくてよかったとほっとする。
「ここ座りな」
椅子をポンポンと叩く。
そこは望月先輩のすぐ隣。
近くないですか?
「はやく来いよ」
と急かされて座る。
こんなに近くにいるのはあの日以来だ。
緊張する。
そんな私をお構いなしに望月先輩は無言で入部届けと格闘している。
その真剣な横顔を見つめている。
ずっとこのままいられたらな。
「…なた。ひなた」
「はいっ!?」
ぼーっとしていたら望月先輩に呼ばれた。
「どうした?ぼーっとして」
望月先輩を見ていた。
なんて言えるはずもなく
「何でもないです!」
と返した。
「ははっ、変なやつ」
望月先輩の笑顔はホントにかっこいい。
その笑顔が大好き。
ずるいや。
私ばっかりドキドキさせられて。
「ここ、なんて書いたらいいと思う?」
入部届けを一緒に書いていることでさえ嬉しく思う。
「疲れたー」
「教室あっちーな」
「早く帰ろうぜ」
上半身裸の生徒が何人か入ってきた。
このクラスの人かな。
私たちに気づいたようで
「お!望月!と、誰?」
「結構可愛くない?」
「望月、部活さぼって彼女といちゃいちゃしてたのかよ」
急にこっちによって来て、囲まれてしまった。
あ、私はかわいくないです。
そして彼女じゃないです。
「よう!もう部活終わる時間か。はやいな。」
気づけば辺りは暗くなっていた。
「『よう』じゃねえよ。その子誰だよマジで。」
「こんなところに可愛い後輩の女の子連れ込んで何してんだよ」
部活終わりの先輩方に質問攻めにされる望月先輩。
「可愛いだろ。入部届け書くの手伝ってもらってた」
?!?
い、今なんて?!
私の気のせいじゃなきゃ『可愛い』と…?
いやいや絶対聞き間違い。
落ち着け自分。
「お前今頃書いてんのかよ。今日までだろ?」
「お前の大好きなバスケできなくなるぞ」
「大丈夫。こいつが手伝ってくれたから終わった」
私の頭をポンポンしながら言う望月先輩。
私の顔はすぐに赤くなる。
「よかったなー。望月」
「この子照れてるぞ」
ほんとに恥ずかしい。
望月先輩は他の先輩たちの言葉で私を見る。
「ホントだ。可愛い」
そんな事言われたら自分の気持ちを抑えられなくなる。
「か、からかわないでください!ほら、入部届け出しに行きますよ!」
その場から早く離れたくて望月先輩を連れて教務室へと向かった。
あなたの何気ない一言ひとことにドキドキしてしまうんですからね!
そんなドキドキを一瞬忘れるくらい、私たちが向かった先ではこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
宮本先生。
なかなか怖い。

