「いよいよかー」
「楽しみやね」
前の席の野口ペアは、二人で一枚のプリントを見ながら、穏やかに過ごしている。
雰囲気は、もう熟年夫婦。
「なーんで引っ付かないのかなー、あの二人……とか思ってる?」
「は?」
視線を移動させると、巻き髪のハーフアップ。
「……相澤」
「見てるこっちが恥ずかしいの何のって感じだよねー、っていうかこれ見て、パパに買ってもらったの!」
「わ、スミレちゃんのそれ可愛いね」
「これは筆箱と同じブランドの物だから高かったよー、たしか……」
自慢げに話し始めた相澤は、いいタイミングで入ってきたみどりに丸投げするとして。
そっと野口ペアに視線を戻す。
相変わらず、雰囲気は熟年夫婦。
でも、相澤がああやって言うってことは、まだ付き合っていないという解釈で合っているんだろう。
「ねー、みどちゃんは何人が告ると思う?」
「なにが?」
「お泊り教室だよー。毎年カップル出来るじゃん」
「あー、出来とるね」
「って、みどちゃんには分かんないか! そうだよねー、みどちゃんは無縁だもんね!」
「うーんそやなー」
何というか。
この町で、こうも中学生らしい会話はなかなか聞かなかったから、不思議な気持ちになる。
窓の外では、いまだに雨が降り続いていた。