「無理やって! 降りてください、定員オーバーです!」

「……あー、昨日誰かさんの自転車にひかれたから、身体の節々が痛くて」

「すみませんごめんなさい」


二人乗りって、腰とか掴まれるんじゃないかと思ってたけど、柊は器用に荷台の付け根あたりを掴んでいるみたいで。背中にもたれ掛かってこないだけ、マシかもしれない。すっごく重いけども。


「てか、二人乗りって違反じゃなかったっけー?」

「……」


無視ですか、そうですか。

自転車は二人分の重さに慣れていないのだろう、キーコキーコと悲鳴を上げている。

そこら中の木や雑草が蒸散しているから、その水蒸気が冷やされて、風自体はひんやりと涼しい。

何て言うんだっけ、こういうの。


「……マイナスイオンだ!」

「は?」


もうやだ、この人怖いんですけど。


「てか、みどり」

「なんですかー」

「どこ通ろうとしてんだよ」

「はい?」


言ってる意味が分からなくて、柊の顔を見ようとしたら、ヘルメットを押さえられた。


「前向け、前」


その言葉に大人しく前を向く。


「え、なんやっけ?」

「どこ通ってくんだって聞いてんの」

「いや、見たら分かるやろ」

「……ここ、山じゃねーの」

「うん、中村さんちの山」


頷くと、溜め息が聞こえた。それを聞いて、慌てて付け足す。


「無断じゃないし! ちゃんと中村のおばあちゃんに許可貰っとるし!」

「そうじゃなくて……」

「だって近道なんやもん」

「もういい。俺の常識は通用しないってことがよく分かった」