「折れる……!」

「はい、引き上げまーす」


絶対折れるだろうと思って見ていると、みどりはゆっくりと枝を持ち上げた。

枝を掴んだままのザリガニもゆらゆらと水の中を漂って。


「どや!」


アスファルトの上に落とされた、鮮やかな赤。のっそりと動き出すそれ。


「言ったやろ? 釣れるってー」

「本当だ……」


ぽつりと呟くと、みどりは得意げに笑う。


「はい、キャッチアンドリリース。さよならザリガニさんー」


そう言って溝の中へとザリガニを戻すみどり。

その笑顔がなんとなくむかついたから、デコピンしておいた。






――知らないことばかりだ、と思う。


周りから賢いと言われて生きてきたし、それなりに知識も学力もあると自負している。

でも、この穏やかすぎる町には、俺の知らないことが溢れている。


まだ知らないことを少しずつ知っていくことに、わくわくしている自分がいて。

もっと知りたいと思う自分には、そっと蓋をした。