僕、赤見翡翠は声優として活動をしていた。とは言ってもメディアに顔出しをしたことは一度もなかったし、性別も公表していなかったから、世間的には謎に包まれた人物であっただろう。


僕の声を聞いた人は誰しもが「男か女か分からない」と口々に言った。少年の役を演じても、少女の役を演じても、歌を唄ってみても。
個人的には「普通に男の声でしょ」と思うのだけど、どうも違うらしい。海にも「翡翠の声は魅力的とか超越して違うレベルのものだから」とよく言われた。
…なんか、自分でこんなことを口走るのは恥ずかしいな。


引っ込み思案で人見知りな僕が、どうして声優なんて仕事をしていたのか。普段の僕を知っている人なら間違いなく疑問に思うことだろう。


声優になるきっかけは海だったけど、僕は自分の意志で自分の為にこの仕事をしていた。僕の声が世間から必要とされ続ける限り、僕は声優を続けていこうと心から思っていた。


大嫌いだったこの声を、海は価値あるものへと変化させてくれた。
大海原へと引っ張っていって、雄大な青色を広げてくれた。


彼と出会ったあの日から、僕の眼下には澄み渡る海が広がっている。
美しく儚い、綺麗なブルーが。