(真山さんは僕が上級生に捕まっちゃったのを助けてくれたんだ。いつもの僕だったら絶対に追いかけようなんて思わない筈なのに…。なのに何でかよく分からないけど、勝手に足が動いてた。
…凄く、綺麗な人だよ。普通の人は違う唯一無二の雰囲気を持ってる人)
ープロの画家、なんですか?
驚きの余り震える手でそう疑問を記すと、彼は当たり前の様子で「そうだけど?『ウミノ』って知らない?」とあっけらかんとした口調で呟いた。
(僕ですら知ってる名前だったんだよ。今日の朝だって、テレビで特集が組まれてたくらいだもん。
そんな人が僕と一緒に作品を作りたいなんて。一体何を考えてるのかな?)
青色のお守りをギュッと握り締めると、涙がじんわりと滲んでくる。真山さんと前で流した涙といい、今流している涙といい、僕はあの日から泣いてばかりいる。
本当は泣きたくないし笑っていたい。
なのに海を失ってしまった僕は、酷く惨めだ。
(…からかわれてるのかな?声が出ない面白い奴が現れたって。
でも…、でも…っ…『喋れないんでしょ?なら書けばいいだけだ』って言ってくれた…。その言葉は嘘じゃないって信じたいよ…)
波打ち際で微笑む海の姿が真山さんと重なる。
正反対もいいところだ。
黒髪とプラチナブロンドの髪。男性らしいがっしりとした体つきと、中性的で華奢な体。青を見据える聡明で真っ黒な瞳と、色とりどりのパレットを見つめるグレーの瞳。
「…翡翠、泣かないで」
今声を発したのは……誰?
閉じていた瞳をほんの少し開け、窓辺の方向に体を向ける。
夜道にひとひら舞い落ちた無彩色の桜は、悲しそうに夜風に靡かれて消えていった。


