(…待って、)
『…待ってください!』
案の定声は出なかったけれど、考える理性よりも衝動が勝った僕は勢いに身を任せて足を動かした。
あの人を追いかけなきゃいけない、その一心だった。
至るところに点在する学生が全速力で疾走する僕の姿に注目してくる。いつもの僕だったら恥ずかしさに耐えられなくなるだろうけど、今はそんな余裕がなかった。
(待って!)
真っ白な洋服の腕を掴むと、その人は直ぐにこちら側をくるりと向いた。近くで改めて容姿を見ると、人間らしくない美しさに僕は目を見開かずにはいられなかった。普通に考えてプラチナブロンドの髪と真っ白なつなぎが似合う人間なんてそう簡単には見つからないと思うけど、目の前の彼は何故かそれが良く似合っている。
「…何、どうしたの?」
灰色の瞳が驚嘆したように丸められる。
僕は「カラコンかな?」なんて思いながら慌てて掴んでいた腕を離した。
「……またあの人達に何かされたの?」
(どうしよう、早く意思表示出来るものを…)
慌ててポケットに手を突っ込んで携帯を手に取った僕を見て、彼は訝しげな表情を浮かべた。
大丈夫、こういう反応をされるのは嫌というくらい慣れている。
「…君、…もしかして」
小さな掠れ声が耳に届く。
「いいや、…君、着いてきて。ここじゃあまりに話すのには不向きだ」
僕が離した腕が、僕の腕をギュッと掴んだ。血の通っていないようなひんやりとした五本の指が手首を優しく包み込む。
次の瞬間、僕は彼に引っ張られたせいで前につんのめりそうになった。
(えっ、?え?…どこに連れていかれるの?)
質問をしたくとも、強制的に歩みを進められているせいで携帯が使えない。手首を完全にホールドしている彼は、僕のことを見向きもしないで早歩きで歩いて行ってしまう。大勢の人達の視線が僕達に向けられているのに、彼はそれが気にならないのだろうか?


