なくした時間にいてくれた

「楓花ちゃん、なに言ってるの？ 気を失っていたのは一時間くらいよ。何日も寝ていたのは花ちゃんなのよ。結局目覚めなかったけどね」

祖母はハンカチで目頭を押さえてから、私を不思議そうに見る。

だけど、私だって不思議でたまらない。寝ていたのは一時間とはどういうことだろう？

事故にあったのは９月だ。それなのに一時間寝ただけで二か月も時が過ぎる？

そんなおかしな話があるわけない。事故の日、何かが変わった？


その後、父と母との会話が耳には入るけど、上の空でどうして今が11月なんだろうとそればかり考えていた。

家に帰り、自分の部屋に入るけど、部屋の空気が違っていた。

父と母にも私か眠っていた時間を聞くと「一時間くらい」と祖母と同じことを言った。でも、私はこの二か月何をしていた？

花実がこの世を去る瞬間に倒れたらしいから、倒れたときに記憶を失った？

病院を出たとき、風が冷たく、９月の陽気には思えなかった。本当に11月なんだ。