一歩足を踏み入れただけで立ちすくす私に気付いた父が姉の名前を呼ぶ。

違うよ、私は楓花じゃない、花実だよ。

震える足でゆっくりと近付く。


「どうしたの? 花実、どうなるの?」

「血圧が下がってきていて、危ないらしい」

「危ないってなに? 死んじゃうってこと?」


私の問いには父だけでなくそこにいる母も祖父母も医師も看護師も誰も答えない。みんな絶望した顔をしている。

ちょっと待って!

私、死ぬの?


「ねえ、何でなにもしないの? 死なないようにしてよ!」


私はただ見ているだけの医師にしがみついたけど、首を横に振るだけで何も話さない。

母は私の体に呼び掛けていた。


「花実! 花実、目を開けて。花実、お願い……」


いや!

死なないで!

死んだらどうなるの?

私は?

お姉ちゃんは?

どうなるのよ!

生きて!

生きて目を覚まして!


私たち家族の願いは届かず、無機質な音が残酷にも病室に響いた。

私の体は死んだ。

私は死んでしまった。


「いやーーーーーー!」


その瞬間自分の体にしがみついて叫んだ私はそこで意識を失った。