なくした時間にいてくれた

夜、岡くんに電話をした。「珍しいね」と彼は笑う。珍しいというより電話で話すのは初めてで、私は少し緊張していた。


「岡くん、一年の時にお姉ちゃんとなにかあった? 話をしたとか」

『随分唐突に聞くね。なにかって、少し話をしたくらいだよ。俺はそれがきっかけでもっと話してみたいと思って、そのあとに何度か話し掛けようとしたんだけど、いつも無視されたというか避けられていた。なぜだか分からないけど、嫌われたのかなと思った」

「なにを少し話したの?」

『一年の時は隣のクラスだったんだけど、委員が同じだったんだ。で、委員会でクラスが隣だから席が隣でね。大したことは話していないんだよ。俺がその時使っていた赤ペンのインクが終わって書けなくなって、松本さんに貸してと言ったらちょうど二本あるから一本あげるともらったんだ』

「お姉ちゃんからもらったの?」

『うん。何で二本あるのかと聞いたら、やっぱりつい最近インクがなくなって新しいのを買ったけど、買ったことを忘れしていて、次の日にもう一本買ってしまったと笑っていた。しっかりしているように見えたけど、意外に抜けているとこがあってかわいいなと思ったんだよね』