なくした時間にいてくれた

そうは思っても誰とも話せないし、帰れないのは寂しい。

のんびり歩いていると後ろから肩を叩かれて振り向くと、唯一話してくれる岡くんがいた。走ってきたのか額に汗が滲んでいる。


「松本さん、帰り道は覚えているの?」

「岡くん……うん、そのくらいはね。朝もちゃんと来れたし」

「そうか。じゃあ、アイス屋さんは覚えている?」

「アイス屋さん? えっと……」


アイスクリーム屋さんの何を覚えていればいいのだろう?

場所?

味?

種類?

でも、何も覚えていないというか知らない。こういう場合どう答えたらいいのか……。

岡くんがじっと私を見ている。すぐに答えられない私を変だと思っているに違いない。

だけど、適当に答えられないし、どうしよう。


「松本さんは行ったことない? じゃあ、今から行こうよ」

「今から?」

「うん。なにか予定ある?」

「特にないけど」

「じゃ、行こう」


先に進んでいく岡くんのあとを追う。彼は背が高く足も長いから、小走りで付いていかないと離れてしまう。私は必死で足を動かした。