それから鶴さんは、自分が消えるのを私に見られたくないからと眠るように促してきた。
当然だけど、時間が限られているのなら彼の姿をなるべく長く目に焼き付けておきたかったのに、彼はそうさせてはくれなかった。


5年前まで毎日そうしていたように、ベッドに潜り込んで添い寝をする。


鶴さんが私の髪を撫でて、私は彼の胸に顔を埋めて。
あたたかい海にプカプカ浮いてるみたいに、心地よくて気持ちがいい。


「こういう体験をしてる人は、他にもたくさんいるのかな」

「え?」

「大切な人が戻ってくる体験」

「………………どうかな。みんな言わないだけでしてるかもしれないし、してないかもしれない」


私の問いかけに、鶴さんが答える。
そうしながらも、彼の手は私の髪を撫で続ける。
規則正しく、一定のリズムで行き来する手が眠りを誘う。


「鶴さん……。眠る前に、ひとつだけ」

「なに?」


ウトウトしそうな意識を奮い起こして、鶴さんの顔を見やる。
彼は穏やかに微笑んでいた。


「鶴さんに会えてよかった。鶴さんのおかげで、私はずっと幸せだったよ。だからもう心配しないで。私はこの思い出を胸に生きていける」

「……………………うん」

「鶴さんは心配症だから。あっちの世界でやきもきするんじゃないかと思ったの」

「さすが小春さん。お見通しだね」

「ちゃんと成仏するのよ、鶴さん」

「あはは、分かった。約束する」