鶴さんは思い出したように、その辺に脱ぎ捨てたダウンジャケットのポケットからゴソゴソと何かを取り出した。


振り向いた彼の手には、キラリと光る指輪。


それを見つけて息を飲んだ。


「つ、鶴さん。それどうしたの?」

「買ったの。あの日の午前中に。小春さんと仲直りしてもう一度プロポーズするために、贈ってなかった婚約指輪を渡そうって決めて」

「じゃあ……、ATMからおろしてたお金ってもしかして……」

「釣具なんて買ってないの。本当はこの指輪を買ったんだ」


申し訳なさそうに笑う鶴さんに、文句のひとつでも言ってやりたくなったけれど。
もう視界がよく見えないくらい、私の目からはとめどなく涙が溢れてしまって、言葉も出てこなかった。


鶴さんの嘘つき。
そんな優しい嘘なんかつかないでよ。


泣いている私の頬に手を寄せて、鶴さんは涙を拭ってくれた。
その温かい手が、私の左手を取る。


静かに、ゆっくりと。


鶴さんは私の左手薬指に指輪を通した。