鶴さんのことなら、なんでも知っている。
鶴さんのことなら、手に取るように分かる。


お人好しで、優しくて、マイペースで、いつもニコニコしている鶴さん。
だからきっと、みんな彼を慕うのだ。


「鶴さんの車は見つかったのよ。仙台港とは違う、遠く離れた場所で。でもそこに鶴さんはいなかった。村上さんという50代の男性が乗っていたそうよ。きっとその人が釣りに誘った人なのね」


きっと鶴さんは知らないであろう、『あの日』の後日談を伝える。


「村上さんは後部座席から見つかったけれど、運転席に鶴さんの姿は無くて……。どこに行っちゃったんだろうね……」

「村上さんは?奥さんに会えたのかな」

「たぶん……。私も、鶴さんのお母さんに聞いた話だから詳しくは分からないけど」


さも村上さんが助かったような口ぶりでお互いに話しているけれど、村上さんは遺体で見つかった。
もちろん鶴さんもそのことには気がついているだろう。
それでもあえて「会えたのかな」という表現をしたのは、彼なりの私への配慮なのかもしれない。