「里ちゃん、とりあえず着替えよう?体が冷えちゃうから。ちょっと待って。ロッカーにジャージがあるから!」

取り乱す里ちゃんを何とか落ち着かせようとそう言うと、里ちゃんはブンブンと首を横に振った。

「もう無理だよ、優亜。こんな姿優亜に見られて……あたし……もう耐えられない」

里ちゃんはそう言うと、自分のロッカーに向かいジャージを腰に巻いた。

「里ちゃん、着替え――」

「――もうあたしのことはほおっておいて!!お願いだからこれ以上惨めな気持ちにさせないで!!」

里ちゃんはそう言うと、そのまま教室から飛び出していった。

一人教室に残されたあたしはしばらく呆然とその場に立ち尽くした。

どうしてこんなことになってしまったんだろう……。

目頭が熱くなる。

あたしと里ちゃんの歯車はどこから狂い始めたの?

あたしが柴村さんをかばったときから?それとも、もっとずっと前から?

里ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。

『ずっとあの3人をうまく避けて学校生活を送ろうなんて甘い考えだったの。あたしはあの3人がいる限り、永遠に楽しい学校生活なんて送れない。それどころか、こうやって……恥ずかしくて情けない目にあう』

里ちゃんは綾香たちをずっと恐れていた。

だから何度もあたしに忠告してくれた。

それを無視して綾香たちに刃向かったあたしのせいで、綾香たちの怒りの矛先が里ちゃんに向いてしまったんだ。

こうなってしまったのはすべてあたしのせい。

里ちゃんを傷つけ、はずかしめてしまった。

涙が溢れた。

胸には自分が傷付けられた時以上の痛みが走る。

「里ちゃん……ごめん。本当にごめん……」

あたしは涙ながらに里ちゃんに謝ると、教室の隅にある雑巾に手を伸ばした。


ロッカーを綺麗にしておかなければ、また綾香たちに里ちゃんが傷付けられてしまうかもしれない。

そんなのもう耐えられない。

あたしは泣きながら必死にロッカーを拭いた。


――でも、その日を境に里ちゃんが学校に姿を見せることはなかった。