調理実習の日を境に、綾香とみやびとマミの3人はイジメのターゲットを柴村さんからあたしにチェンジしはじめた。


靴を隠され、教科書をゴミ箱に捨てられ、財布の中のお札を抜かれ、体操着を水浸しにされた。


毎日のように繰り返される嫌がらせは日を追うごとにひどくなり、あたしの心をむしばんでいく。


何をされても必死に抵抗していたものの、心はすり減り、朝教室に入ろうとするだけで足がすくみ動悸がする。

そして、追い打ちをかけたのが担任の若菜先生だった。


「――逢沢さん、遅刻ですよ」

朝のHRの途中、あたしは教室の後ろの扉を開け中に入った。

手には水浸しの薄汚れた上履きが握られている。

上履きから滴る水がポタポタと教室の床にシミを作っていく。

それはあたしの心の声。まるで、涙のようだった。

クラスのあちこちから漏れる声。

「うわ……悲惨……」

「マジで……」

同情とさげすみの目がこちらに向けられる。

綾香たちはニヤニヤしながらあたしを見つめていた。


「すみませんでした……」

小声で謝りながら、若菜先生を見つめる。

お願い、気付いて。水浸しの上履きを手に靴下で教室に入ってきたあたし。

明らかに異常なこの事態に気付き、『どうしたの?』と尋ねてほしい。

そうすることでイジメがなくなるとは思えない。

けれど、イジメの抑制にはなるかもしれない。


「何しているの!そんなところに立っていないで、早く上履きを履いて自分の席につきなさい!」

でも、そんなあたしの期待もむなしく若菜先生はそう冷たく言い放った。